トウキョウ 死者の書 8
人は夜になると、
自分の内面の世界に意識が向かい出すのでしょう。
皆が寝静まった病院での夜の時間は、
父との素敵な時間になりました。
亡くなる10日ほど前、
「無の境地だな」
という言葉が父から出てきた時には、
一瞬どういう返事をして良いものかと戸惑いました。
普段クラスでは、
無であることの重要性を常に語ってきましたが、
全くそういったことに関心のなかった父からの言葉です。
私は、
「あら、私はいつも無の境地で居られるように頑張っているけど、
パパは、すんなりとその境地になれて凄いわね」
と、返しました。
すると、
「いろんな幻想は、どうしたらいい?」
と、父。
「私は毎日1時間は、見えない存在と話をしているわよ。
パパのことも宜しくって言ってあるからね」
と、話すと 声を上げて笑って、
「迷惑だって言ってないか?」
と、父。
「大丈夫よ。仲良しだから」
と、私。
父はゆっくりと眠りに入っていきました。
今にして思えば、
「無の状態」
になれば、
様々な周波数の世界が当たり前に広がっている
と、説明したほうがよかったかな?
とか、
どの状態の時に何が見える?感じる?
と、聞けばよかったかしら?
と思いますが、
あの時の会話は、
父との時間の中で一番好きな時間です。
父である鎧と娘である鎧を必要としないとてもシンプルな時でした。