深い闇
新幹線に乗っていると、ある駅のホームに後ろ手に縄で繋がれた人が7人も立っていた。 皆一様にその光景に釘付けになっていると、その人たちが同じ車両に乗ってきた。 それまで和やかだった車両は一瞬にして、ピンと張った緊張感に包まれた。 さっきまでご機嫌だった赤ちゃんは急に悲しげに泣き始めた。
警護官らしき人に座席に詰め込まれるようにしてその人たちは座っていた。
その一角は、なんともいえない深い闇が立ちこめているようだった。 その人たちが動くたびに、警護官の人は平静を装いながらもピリピリと反応しているのが良くわかる。
次の駅で、彼らは降りていった。 また、後ろ手に縛られ、繋がれている姿を見せながら。。。 警護官は相変わらずピリピリしている。 彼らが出て行くと 車内はチューブから歯磨き粉が搾り出されるように深い闇が存在しなくなり、 次にその座席に乗ってきたのは、香水の香りを漂わせた流行の先端を行くような若い女性たちだった。 その差が、なんとも空しく。 若い女性以外の声は暫く存在しなかった。
始めは、後ろ手に縄で縛られた集団を見たことがなかったので物凄く怖かったけれども、だんだんと、そこにある闇の深さに思いを馳せた。 あそこから一歩世界へ踏み出していくことは本当に大変なことだろう。 若い人も、年老いた人もいた。 どんな人生を送ってきたのだろう。 始めから闇に包まれて育ったのだろうか? 飲み込まれていくしかなかったのだろうか? そのエネルギーに自分の中の深い闇の部分も蠢く感じがした。 そして、どうか新たな一歩を踏み出せますようにと祈らずにはいられなかった。
髪をそられ、縄をつけられ、皆の目にさらされ遠ざかっていく彼らに、人権はあったのだろうか?