息がつけなくなるほど何処までも続く甘美なラフマニノフ
ショウヘイ(父)に
「誕生日に何が欲しい?」
と聞くと 「CDをくれ!」という。
何も指定がないので、とっても苦労する。
その割には、文句が多い。
タワーレコードで店員さんに相談し お勧め盤を何枚か選んでもらって、プレゼントした。
イマイチなものの方が多く「どうしてこれをユキが選んだかがわからない。」と憎まれ口をきいていたが、
一番、気に入ったのが 来日しているツィマーマンの「ラフマニノフ ピアノ協奏曲第1番&第2番」
店員さん曰く 「ただ力強いだけでなく、繊細で甘美な演奏です。」 とのことだった。
父は「どうしてこれを選んだの?」と一々質問をしてくる。
これは私が小さい頃からの習慣。
私が選んだものについて、なぜそれを選んだか その背景を知りたがる。
私が生まれたとき、父は「音楽を聞かせて育てる!」と張り切って、新しいステレオセットを買い、毎日私にクラシックを聞かせていたらしいが、まったくその影響を受けずに大きくなってしまった。
昔は、テレビの中で見るほうが多かった父にそう尋ねられると、本当に緊張して「一番正しい答え」を探したが、父が満足するのは「一番正しい答え」ではなく、「ユニークさ」だった。
その「ユニークさ」が子どもの頃はわからずに本当に苦労した。
今でも、父の評価基準は「正しい答え」ではなく「ユニークさ」だ。
ふてぶてしくなった私は、緊張することなく
「息がつけなくなるほど何処までも続く甘美さかな?」と言ったら、ちょっと満足してラフマニノフ論を暫く論じていた。
あんなに怖かった父は、今や「可愛い父」になっている。