海のエッセンス 3
翌朝は、台風が近づいてきているという事でしたが、
瀬戸内海は、薄曇りながらまだ静かな浜です。
テレビが無いので、台風の状況は、空と海の様子を見て察するのみです。
前日までは、連休で海遊びをする人もそれなりにあったのですが、
この日は、人気がありません。
カヤックを借りて、周りの島々を渡ろうと思うのですが、
宿の方から、
「くれぐれもご自分で危ないと思ったら引き返してきて下さいね。」
とご注意を受けます。
海沿いの道は、台風の影響で波が高くなってきているので、通行止め。
山の方から回ってカヤックを貸して下さる方の所に向かいます。
山の中に入ると、
生き物達は、嵐が近づいてきている事を察しているがごとく、
息をひそめたように静まりかえっています。
湿った風が木々の葉を揺らし、どこからか雨の匂いもしてくるようです。
向こう側の浜に降りると、
小さな建物があり、
声をかけてもどなたもいらっしゃらないので、
裏に周ると、
木々の奥にひっそりと
「塩工房」
と看板が出ています。
中の方に歩いていくと、
もうもうとした煙の中から人影が。
魔法使いの工房のようです。
それでも、生き物が息をひそめている中で、
日々の生活を続けていらっしゃる様子は、
何だかホッとする物がありました。
「カヤックを借りにきました。」
と、申し上げて、海までカヤックを出していただきます。
100分だから、12時までに帰って来てください。
と、どう計算しても、100分以上ですが、
ありがたく、時計を合わせて出発します。
薄曇りながら海の水は暖かく、
オールをこぐのが下手な私は、
暖かい水しぶきをあびながらこぎ始めます。
気持ちいい!
目的の島の近くに行くと、
急に風が強くなり、
こいでもこいでも先に進みません。
そればかりか、波が高くなってカヤックが木の葉のように右に左に揺れ始めます。
私がいなくなっても暫く誰も気づかないよね〜。
と、どこか冷静に考えながら自分を整え始めます。
こんな時は気を落ちつけて上と繋がり、
島に上がる許可をいただきます。
暫くその状態になって繋がり始めると、
風が止み、
カヤックが前に進むようになります。
波動、エネルギーとの同調は、
魔法の扉を開く鍵になります。